サイエンス

「完全に人工的な細胞」を作る試みが行われている

by University of Liverpool Faculty of Health & Life Sciences

細胞は生物の基本構造であり、実験室で培養した細胞がさまざまな研究に利用されています。そんな中、生物から採取した細胞を培養したものではなく、全ての要素を人工的に作った「完全に人工的な細胞」を生み出す試みが行われています。

On the path to an artificial cell
https://phys.org/news/2018-06-path-artificial-cell.html

一体何が「生きている細胞」の要件であるのか、という根本的な問いについて考えることが、人工的な細胞を作り出すために必要です。理論物理学者のエルヴィン・シュレーディンガー氏は、「生きているものは食べ、飲み、呼吸する」と端的に表現しました。これを生物学的な用語で言い直すならば、「代謝している」ということになります。代謝はヒトやイヌといった動物の個体に限った現象ではなく、個々の細胞についても代謝は必要不可欠なものです。

マックス・プランク研究所やフランスのボルドー大学らの研究者は、共同で人工的な細胞を作り出す研究を行っています。研究チームは、簡単な形の代謝機能を「外界から隔絶された小さな環境内に作り出す」ことで、人工細胞を作り出す第一歩を踏み出しました。

細胞はそれぞれが膜に覆われて独立した環境を持っているため、研究チームは油の中に水で形成された小さな液滴を用意し、周囲から分離された細胞の代わりとして用いました。研究者らはこの液滴の中に異なった分子化合物を加えていき、代謝反応をシミュレートさせたとのこと。

by Rebecca Siegel

一見すると水で作られた液滴の中にいくら分子化合物を加えていったとしても、それが生きた細胞を作り出す試みに寄与するとは考えにくいかもしれません。しかし、マックス・プランク研究所のカイ・サンドマッハー博士は「技術的な観点から見れば、このように簡略化した代謝機能を持つシステムを作ることも、より複雑な自然の細胞を作り出すことに役立ちます」と語っています。

マックス・プランク研究所のイヴァン・イヴァノフ博士は、「『細胞が持つ基本的な特性を再現した、最小限のシステムを作り出そう』という発想から、液滴の中で代謝システムを再現する試みはスタートしました」と話しました。細胞が持つ特性を一つ一つ再現していくことで、「生物が必要とする最低限の要素は何なのか?」という謎を明らかにすることができるとのこと。

生物学者は通常、すでに完成した生物や細胞を用い、それを分解したり分析したりすることでさまざまな研究を行います。ところが、「細胞の細かい部分を見ていくと、遺伝物質には重複や不必要な要素がたくさんあり、本当に必要な最小限の要素を確認することが難しいのです」とイヴァノフ氏は語っており、今回はボトムアップのアプローチで細胞の謎に迫ろうとしているそうです。

by Vall d'Hebron Institut de Recerca VHIR

研究者らは液滴の中に「栄養」としてグルコース-6-リン酸(GP6 1)を注入し、同時にGP6 1を酸化させて科学的エネルギーを取り出す補因子のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドも注入しました。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドには酸化型(NAD+)と還元型(NADH)という2つの状態を取り、NAD+の状態でGP6 1を酸化させてGP6 2という状態に変化させ、GP6 1を酸化させたNAD+自身も還元型のNADHに変化します。

NAD+は実際の細胞内でも代謝に関連しており、代謝反応の過程でNADHに変換されていくため、これは実際の代謝システムを模した活動になっています。研究者らは反応を実際の細胞に近づけるため、液滴内のNADHを酸化させて再度NAD+を作り出すモジュールを追加し、代謝活動に必要なNAD+がなくならない仕組みを構成したそうです。

液滴内のGP6 1が使い果たされると液滴内の活動は終了し、睡眠状態に移行するとのこと。このモデル代謝システムは生物が持つ自然代謝機能の基本的特徴を持っていますが、十分に自然の細胞と同様の機能を再現するためには、さらに自己の構造設計を保存し、新たな細胞を再現する機構を持たせる必要があるとのこと。研究チームは完全に人工的な細胞を作り出すためにも、さらなる研究を続ける必要があると考えています。

by Ken Berean

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in サイエンス, Posted by log1h_ik